「粋々紀行」第三弾 ~レーザー彫刻と木のおはなし~
粋々メニューブックの制作に携わる人々を取材してお届けする「粋々紀行」。
第三弾は板橋区でレーザー彫刻を中心にお仕事をされいる有限会社ケイアート彫刻を訪ね、
木製メニューのウッドスライダーにレーザー彫刻にどのように名入れをしているか。
粋々の販売元である株式会社HIRASAWAの広報部、萩原が取材致しました。
記者:
まずはケイアート彫刻さんの歴史を教えてください。
写真:有限会社ケイアート彫刻 川上専務
川上専務:
以前は川上彫刻工芸という会社名でした。
社名の通り当時は工芸品を彫刻する仕事です。
祖父の代では仏像の彫金などをしていました。
写真:川上彫刻工芸時代に制作された「棒鼻金具」
真鍮に鏨(たがね)をトントンと打って彫金をします。完全な手作業の世界です。
これは御神輿を担ぐ木の棒の先端を保護する「棒鼻金具」です。
今はこのような彫刻はメインの仕事ではありませんが、補修の依頼は受けています。
他にも神社の看板を手掛けたりもしています。
記者:
社内には大がかりな電子的な機械もありますね。
川上専務:
現在はアクリル彫刻が増えています。街を歩いていると見かけるような案内板とかですね。
写真:社内アクリル彫刻の様子
他にも主な業務として道路に埋まっている金属の表示板の彫刻も手掛けています。
印刷は時間が経過すると消えてしまいますが、
彫ることにより時間が経っても残るので彫刻向きですね。
記者:
金属への彫刻は手作業が中心なのですね。
細い鉄の棒に非常に細かいメモリを彫っていらっしゃいますね。
平面ではない所にミリ単位以下の彫刻を施されています。職人の世界ですね。
写真:まさに職人技!金属への彫刻シーン
川上専務:
この手作業が出来る職人は減ってきました。
まず手動の機械を扱える人が今では少なくなりましたね。
景気の良かった頃は、彫刻に失敗しても予備がたくさんあったものですが、
今の時代は数量もシビアになっていますので、余裕のある考え方は出来ません。
そうなりますとベテランしか出来ない作業です。
昔のように手取り足取り若手を育てる環境には程遠いですね。
そのような事情から手彫りの細かい作業は
当社にお仕事が入ることが最近は増えてきました。
また、一度作業に入ってしまうと機械につきっきりになります。
継続的に細かい動きをするので、途中でむやみに手を止めることは出来ません。
電話も来客も出られなくなります。
レーザー彫刻に力を入れるように理由もそのあたりの事情もありますね。
レーザーの場合はお客様からいただいたデータを機械に送り、
あとはセッティングをするだけです。
彫りの作業は機械がすることですので。
記者:
ですが、勿論そんな簡単な作業ではないですよね。
川上専務:
(笑)
そうですね、簡単ではありません。木からは脂(ヤニ)が必ず出ます。
自然界のものですのでその量は様々です。
木を知っている人間でないと機械の調整は難しいです。
レーザーで焼くので焦げの付き方も加減が必要です。
写真:レーザー彫刻のセッティング作業中
記者:
機械任せにはならない、人の手じゃないと出来ない作業ですね。
ところで、木について語る川上さん、輝いていらっしゃいますね。
川上専務:
大変ですが木と向き合う作業は非常に楽しいです。
繊細でどこを切っても木の個性があります。
一例を紹介させていただくと、松の木の中でも樹脂を多く含んだ松を
「肥松(こえまつ)」と呼びます。
火付きがよくて火持ちもするので、
松明(たいまつ)用の木ともいわれる松脂の多い木です。
記者:
初めて聞きました。松明用の木があるのですね。
川上専務:
この肥松で数珠を作っています。太陽に向けると透けるほどの透過率の高い木です。
松が倒木して100年程そのまま放置された状態でないと出来上がりません。
その長い期間に木に脂が溜まっていくわけです。
記者:
100年ですか。気の遠くなる年数ですね。
その木はどのように管理されていらっしゃるのでしょうか
川上専務:
親族が山梨県で山を守っているので手に入るのです。
数珠に加工して数珠屋さんに見せたこともありますが、驚かれましたよ。
こんな松は見たことがないって。数珠屋さんですら扱ったことがない素材なのです。
写真:川上専務の作品 「肥松」を使った数珠
松脂ですぐ刃をだめにしてしまうので加工は非常に大変で手間のかかる分、
その美しさは格別です。
アクセサリーにも加工してインターネットやイベントで販売をしています。
写真:「肥松」を使ったケイアート彫刻さんオリジナルアクセサリー
記者:
とても素敵なアクセサリーに変身しましたね。木の温かみとしっとりとした色合いが魅力的です。
光沢もあり宝石のようです。身に着けたくなりますね。
【ウッドスライダーのホワイトを実際に作っていただきました】
記者:
本日は目の前でウッドスライダーにレーザー彫刻でロゴを焼き入れていただきます。
まずは制作の一連の流れを教えていただけますか?
写真:「粋々」ウッドスライダー〈紙タイプ〉
洋風やイタリアン・バルなどでカジュアル路線のお店によく合う、
国産の木材を使用した木製メニューブック。
A4サイズで風合いのあるクラフト紙を使用した〈紙タイプ〉と
水濡れに強い〈ビニールポケットタイプ〉の2種類
川上専務:
まずはロゴのデザインを見て、焼き加減を含めて彫り方を考えます。
見当をつけたらデータをレーザー彫刻の機械に転送して、
木の状態を確認しながら作業を進めます。
ウッドスライダーのほんの数十本の彫刻を行うときでさえ1本1本、
木の状態が違います。全く焦げない木もあるのでその時はひと手間、ふた手間。
何度か焼いて焦げ目を調整します。
記者:
全て木の個性を確認しながらの作業なのですね。
川上専務:
最適な焼き色の状態を探りつつの作業です。
ウッドスライダーはナチュラルとホワイトの2カラーありますので、
レーザー照射の度合いもカラーによって調整が必要です。
写真:レーザー彫刻中のウッドスライダー
記者:
下地の色も焼き色に影響するのですね。
ウッドスライダーには高知県から取り寄せた銀杏(いちょう)の木を使っています。
飲食店で使うので強度を重視しています。「粋々」の商品として木にこだわりを持っている分、
特性を知ってくださっている川上さんに扱っていただけることは心強いです。
さて、出来上がったようです。
途中で調整もしていただき、綺麗な焼き色に仕上がりました。
写真:完成したウッドスライダーのホワイト
川上専務:
探せば当社のような木に詳しい彫刻屋もありますが、
特に関東近郊は徐々に数が少なくなりましたね。
当社は私自身が山で木を切る作業もしています。
先ほど話した山梨県の親族の家のお隣が大工さんなので、
スペースも道具もあるので贅沢な環境です。
室内でコツコツとアクリルの加工作業に向き合うのも勿論良いのですが、
木は大自然の中のものですので、外の作業は気分転換にもなりますね。
ほとんど趣味の領域です(笑)
記者:
木は色々な種類もありますし個性もありますから、色々な発見をされるのではないでしょうか。
川上専務:
面白い木があるのですよ。リグナムバイタという木です。
紫外線に当たると濃い緑色になる不思議な木です。
さらに年月がたつと濃い緑から黒っぽくなっていきます。
紫外線が当たらない環境になると色が戻ってしまうので、
理想の色になったら色を止めるために専用の塗布剤を塗ります。
とても重いため水に沈む特性もあります。
見た目で「紫檀」と見分けるのが難しく専門家でないと分からないくらいです。
記者:
水に沈み、紫外線で色が変わる木があるのですね。木の世界って奥深いですね。
香りに特徴のある「白檀」や、お仏壇で使われる「黒檀」は知っていましたが、
「紫檀」というのは初めて知りました。
川上専務:
リグナムバイタは濃い緑色が一番美しくになるまで数年かかるので、
黒っぽい状態がお好みの場合は「紫檀」をお勧めします。
記者:
まさに木のプロフェッショナルですね。
ウッドスライダーは粋々の中で唯一の木を使用した製品です。
このようなメニューブックの形態は珍しいと思うのですが、
川上さんから見てウッドスライダーはどのような印象がありますか?
川上専務:
そのままのレールに紙を挟むとなりますとプラスチック製品の感じがむき出しになり
冷たい感じがします。木で包み込むことにより手触りも変わりますし、
見た目の温かさも生まれますね。
一歩間違えれば文房具になりそうな商品ですが、
木があるだけで全く違うものに変身しましたね。
とても良いアイデアだと思います。
記者:
ありがとうございます。職人さんにお褒めの言葉をいただくと大変光栄です。
川上さんは木製品の彫刻の他にもご活躍されている現場があると伺いました。
先ほど創業時のお話の中で伺った御神輿の「棒鼻金具」に携わっていらっしゃる関係で、
神輿を通じて日本の文化継承を推進するNPO法人を申請中とのことですが。
川上専務:
日本では御神輿の担ぎ手になる若者も減っています。
祭りの文化自体が衰退している現実があります。
日本が世界に誇るべき文化的事業でもありますので、
どんどん裾野を広げていこうと思っています。
仲間の御神輿は現在、フランスをはじめ世界6か国にあります。
活動の甲斐もあり色々な分野の職人さん達との交流も生まれました。
御神輿職人さんは勿論、珍しい出会いでは妖怪画の画家さんなども。
上野で年4回ほどイベントもやっているのですよ。
神輿JAPAN:https://mikoshi-japan.net
記者:
海外で日本の着物は昔から人気がありますが、浴衣も最近は人気と聞きます。
盆おどりもBON-danceとして流行していますね。
2020年は東京オリンピックの年ですし、
今まで以上に日本の素晴らしい伝統や芸術が世界に発信できますね。
和業態メニューに強い「粋々」のメニューブックも
日本料理のお店でなどで大活躍の1年となりそうです。
「粋々」もケイアート彫刻さんの活動をお手本に、
メイド・イン・ジャパンの素晴らしさを広めていきたいと思います。
本日はありがとうございました。
【編集後記】
板橋区の住宅街の中にある温かい雰囲気が印象的な有限会社ケイアート彫刻さん。
取材の途中に、来社された取引先様と和気あいあいと明るく接しておられる中にも、
「ケイアートさんにお任せしますよ」と、
深い信頼関係の証である言葉が聞こえることが度々ありました。
現在はご子息であり専務の川上智洋様が中心でお仕事をされており、
歴史ある会社に若いフレッシュな風が吹き込んでいます。
お父様が取材スタッフに気さくに話しかけてくださり、
笑いもありとても楽しい訪問となりました。
年末の非常にお忙しい中でお時間をいただきありがとうございました。
写真:オフィスの前で。左はお父様、右は川上専務